矢沢はサーキットでRQを撮影する際、必ず振り返りポーズを要求する。

   このポーズのメリットは、全身ショットでコスチュームのバックデザインを撮ることができ、バストアップでは正面と異なった角度で顔立ちを捉えることができることだ。だが、メリットはこれだけではない。女の子を一瞬にして演者にできるのだ。

    例えば、不意に呼び止められた時の小さな驚きや、彼氏と別れる際の寂しげな表情など。振り返らせることによって、必須の決め笑顔とは一味違う表情を引き出せるのである。この手法が見事にハマった新人がいる。

    今年「SUPER GT」に参戦している「JCLUB ALII レースクイーン」の矢野めぐみだ。彼女を最初に撮影した際は直立不動。ポージングも腰に片手を添えるのが精いっぱいという様子で、笑顔のつもりが全く笑えてない。

    「こりゃ、参ったな……」。しかし、こんな時に役立つのが、"振り返り"ポーズだ！   早速、指示を出し、「これで何ポーズか稼げるな」と何気なくカメラを構えてドキッ！とした。ファインダーの越しの世界が一変していたのである。

PHOTO/TAKANORI YAZAWA

↑矢沢、心惹かれる。いわく「スカジャンを羽織った男勝りの主人公が「アタイについてきな」と言っているかのよう」。

    前髪が絶妙なバランスで片方の顔を覆い、振り返ったことにより流し目気味になった目は実に涼しげ。やっと笑っているであろう口元は、むしろ不適な笑みを浮かべているかのようにさえ見える。それはまるで80年代に一世を風靡した大映テレビのような世界観。スカジャンを羽織った男勝りの主人公が「アタイについてきな」と言っているかのようだ。

    素人同然のこの時期に、ただ振り返っただけで、撮る側のイマジネーションをこれだけ駆り立てるコは珍しい。「このコがスキルを身に付けたら、無敵のクールビューティになるのではないか？」。

    そこに興味を持った時から、彼女を継続的に見て行こうと決めた。

    再会のときはまもなくやってきた。一週間後に行われた「スーパー耐久レース」に「DIXCEL レースクイーン」として参戦していたのだ（こちら）。「さて、今日も振り返らせてみるか……」。期待を寄せつつカメラを構えると、どうしたことか!?    表情が格段に柔らかくなっているのだ。最初にインパクトを受けた鋭さが鳴りを潜め、ありきたりのRQになってしまっていた。

    これがスキルによるものなら受け入れられるが、前回の取材から日数が経過していなことからして、明らかに意図的なものではない。むしろ、取材慣れしたことによる、緊張感の薄らぎによるもののように感じられてならなかった。「ちょっと、買いかぶりすぎたか……」。ポテンシャルの見極めは次回へと持ち越された。

PHOTO/TAKANORI YAZAWA

↑左、スーパー耐久開幕戦時の「慣れ」、右「SUPER GT」第3戦時の「スキル」

    それから一か月とちょっと。「SUPER GT」第3戦で三度彼女を撮影することとなった。期間も空いていたので見極めには程好いタイミング。しかも、取材場所はフェンス際。スキルを試すには絶好のお題付きだ。早速、矢野めぐみをフェンス際に立たせる。大まかな指示だけして、あとは自由に動いてもらうことにした。

    最初は全身。膝上、バストアップと、徐々に距離を近づけて行く。更に下から煽るような角度でも撮影してみると、完璧とは言えないが、フェンスという「お題」を精いっぱい活かしながら、一生懸命こちらのカメラワークについてくるのだ。

    最初の「偶然」、2回目の「慣れ」とは明らかに違う、スキルを身に付けた矢野めぐみがそこにいた。例のポーズも健在だ。振り返らせると目力が強くなる彼女だが、この時は意志を持って睨みを効かせているようだった。

    女性は自分の魅力に気づいていない時が一番美しい。しかし、これがプロとなると話は別。自分の魅力を客観的に捉えた上で、状況に応じたて演じ分けなければならない。それが取材レベルであっても順応性の高さは極めて重要。少なくとも矢沢はその時点でタレント性を見極める。

    矢野めぐみはスタートラインに立ってまだ半年。自分の魅力に気づいていなかった素人時代から、今、まさにプロフェッショナルへ移行しようとしている。レースも後半戦に突入した。残り2か月で彼女がどこまで成長できるのか!?   今後も注目していこうと思う。