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レーシングインタビュー百番勝負
2009年05月16日
【インタビュー】03 福山英朗 耐久レースは人生に似ている

 

 

「このマシンの良い所は俺が全部引き出してやった、

 みたいな気分が、やっぱりうれしいよね」

             福山英朗

 

 

 

 

         PHOTO/FUMITAKA KUSUMI

 

 

世界三大レースのひとつルマン24時間レースの優勝(”世界三大”のあとのふたつは「F1モナコグランプリ」「インディ500マイル」)、米NASCARシリーズのレギュラー参戦など、何人にもないレース体験をくぐり抜けてきた姿は、さながら「耐久レースの王様」? 現在は、日テレG+「NASCAR中継」の解説者でおなじみの福山英朗さん。「レース界の伝道師」として、やさしい語り口で”ドライバーとレーシングマシンの関係”を教えてくれました。それでは、シグナルブルー!

 


 

●いろんなレースカテゴリーがありますが、スーパー耐久レースの魅力はどこにありますか?

 

「その話を始める前にひとつ質問しようかな。みなさんご存じの通り、レーシングカーにはいろいろあります。でも、ふたつに分けることができる。なんだと思いますか?」

 

●タイヤが剥き出しで単座のフォーミュラカーと、改造車、いわゆる”ハコ”のクルマですか?

 

「うん、見たまんまだとそうだよね(笑)。正解は、ドライビングする人間よりもスペック(性能)が高いレーシングカーと、人間よりもスペックが低いレーシングカーなんだよね」

 

●あー、そういう着眼点なんですか。どっちの力が優っているのか。【マシン>人間】or【マシン<人間】、両方のパターンがある、と。

 

「そうです。そこに気づくと、レースは面白くなってくるんですね。たとえば、みなさんもよく知っているF1マシン。マシンの性能が、人間の性能をはるかに超えているよね。だから、人間は自分の限界を全部出して、マシンの限界に到達しようとする。言い方を変えると、常人ではマシンの力を全部が全部、引き出せない。国内レースでいえば、スーパーGT500もこれに近いね」

 

●そういうのは「モンスターマシン」というヤツですね!

 

「まさに怪物だから(笑)。レーサーの取材を重ねていくと気がつくと思うけれど、みんな『安全運転をしている』と言わない?」

 

●よく聞きます。「限界を超える? そんなことしたら事故るじゃん!」って(笑)。実は不思議に思っていたんです。レーサーってのは限界を超える超人なんだという先入観がありましたから。

 

「はははは。限界値が他人より高い人間は超人に見えるかもしれない。そういうことだね。だから、ドライバーは自分の限界値を上げる努力をまずします。でもいくら努力しても、極論をいえば、F1マシンやGTマシンは、まだまだマシンに余裕があって、ドライバーは結構一杯一杯になる。そういう力関係だと、ちょっとの拍子にクラッシュしてしまう。じゃあ、逆のケースもある。人間に余裕があって、マシンが一杯一杯。それがスーパー耐久レース」

 

●人間側がオーバースペック(性能が余っている)で、マシン側がアンダースペック(性能が足りない)。となると、耐久レースのドライバーはイライラしませんか? 素人考えでは、力一杯、フルスイングできない感じに思えます。

 

「そこが耐久レース全般の面白味なんだ。あのね、ムチャをしたら、クルマがボンと壊れる(笑)。サスペンションが音を上げたとか、エンジンが悲鳴を上げたとか、ブレーキがスカスカになっちゃったとかさ。そしたら、リタイアですよね。レース終了よ(笑)」

 

●あ、耐久ってドライバーが我慢してるとドシロートの勘違いしてました。基本的にはクルマが耐えているんですね。

 

「そう。だから、モンスターマシンはクラッシュに注意、耐久のマシンはトラブル(故障)に注意」

 

●ひとことでレースといっても、スーパーGTとスーパー耐久はゲームの種類が違いますね。子供に「ケガをするな!」「おもちゃを壊すな!」と両方言いたくなるのと同じですか(笑)。素人考えですが、なんだか身の回りに近い例がいっぱいある気がしてきました。

 

「人間には両方の要素が必要でしょ?(笑) スペックが、【人間>マシン】になると、マシンを壊しちゃう。だから、耐久レースには、”コントロールする歓び”があるんだよね。相手(マシン)のいいところを引き出してあげる。それにはどうしてやれるか、を考える。マシンが疲れてくるのを少しでも遅らせるように労って走るんです。それを考えないと、絶対にレースを勝てない。それどころか、完走すら覚束ないんだね」

 

●ふと、こういう例を思いつきました。人は自分よりも力が上の人とつきあうほうが楽です。自分よりも力が下の人とつきあうと、途端にイライラしてくるケースが多いです。30代も半ばを過ぎた人間にはそういうことが多くなる気がします。……あっれ〜、僕はなんだか福山さんが世界で一番の上司に見えてきましたよ(涙)。

 

「だって、耐久レースは本当に人生に似ているもの(笑)。そういう人にこそ、耐久レースに興味を持ってもらいたいんだなぁ〜、俺は」

 

 

         PHOTO/FUMITAKA KUSUMI

 

 

●人生と似たことがレースの真っ最中に起こっているとして、福山さんが、一番楽しいのはどの瞬間ですか?

 

「レース中にラップ(周回)を重ねるでしょ。現在の耐久レースのクルマは、一周のラップタイム計時が、コックピット内の画面にデジタル表示される仕組みなっているのね。それで、レースの最中に『あれ? さっきの周と0.01秒まで、同じだ!』ってことがあった。次の周、『あれ??? またさっきの周と0.01秒まで、同じだ!』」 

 

0.01秒までって!? すごいですね。そういうことってあるんですか?

 

「それが3周続いたの。俺、ハンドルをバンバン叩いてヒャッホーと叫んだよ」

 

●わははは、レースしながらヒャッホーっていうんですね、ドライバーは(笑)。ついつい、そこに気が取られました!

 

「そう。だって、これはそのクルマの最高の性能を、安定して引き出し続けているってことの証明ですからね。これ以上の証明はないですよ。『こりゃすごいぞ、ヤッター!』って。ああいう瞬間だね。レースは周回遅れにも出くわすし、エンジンもブレーキもタイヤもタレてくる(=ダメになってくる)から、まったく同じ周というのはないんです。状況は一周ごとに常に変化している。その変化を感じながら微調整しながら、ノっている! 俺は完全にコントロールしている、それも完璧に! と思える瞬間が楽しいねぇ〜。2年前の、十勝24時間耐久レースで実際ありました。ああいうのを何度も味わってみたいなぁ」

 

●福山さんはコントロール欲が強い人なんですか?

 

「コントロールというのは支配とは違うんだけれど、良い所を引き出したい欲は強いと思いますよ。コイツの、このマシンの良い所をは俺が全部引き出してやった、みたいな気分は、やっぱりうれしい」

 

●となると、マシンと対話しているんですよね。

 

「そう。ドライバーは、神経を張り巡らせてマシンと対話してます。クルマから出てくるいろんなサイン……振動や音や匂いや重心感覚や……を読み取ってドライビングを微調整していくんだね。騙し騙しってヤツだよ(笑)。こっちの我ばかりを通したら、あっちが先にボンと壊れちゃうから(笑)」

 

●その対話を、僕らシロートがサーキットで観てわかる具体的なポイントはありますか?

 

「うーん、残念ながら見えないな(笑)。初心者向きにサーキットでの見どころということならば、コーナーのブレーキの踏み方を見ると面白いんじゃないでしょうかね。……こういう言い方はできるかな。スーパーGTはいまや『空力マシン』といって、マシンが走るときに前から当たる風をどう使うか、という点が大事なんですね」

 

●時速200kmで走るということは、前から時速200kmの風を受けるということです。

 

「そう、いまのGTマシンは曲がるときには、ちょっと早めからソーッとブレーキを踏んで、ちりとりで空気をかき集めるみたいな感じでスーッと曲がっていくコーナーもある。それが速い曲がり方。一方、スーパー耐久のマシンだと、トンとブレーキを踏んでクルマを一回、前につんのめらせるのね。そうすると、前輪にクルマの重さが乗っかって、……前荷重というんですど……、クルマの重さで前輪を路面に押しつけて曲がっていくほうが速い。非常に大雑把にいえば、そういうことになります」

 

●理科ですね(笑)。物理といったほうがいいかもしれませんが。

 

「人間は物理には逆らえないね、いっくら根性だしても(笑)。ともかく、スーパーGTに乗るときと、スーパー耐久に乗るときは、違うドライビングをしないと速く走れないということですね。ふたつのカテゴリーを比べて見ると、レースの面白さがふくらんでくるんじゃない? 今度、サーキットでスーパー耐久レースを見るときは、コーナーの曲がり方に注目してみてください。……それもそうなんだけど、みんなレースをやってみないかい? こういうことを多くの人に味わってほしいんだなぁ、僕は」

 

●レースと人生はいよいよ似ているなと思ったお話でした。ありがとうございます。

 

 

 

PROFILE●福山英朗(ふくやまひでお)

 

1955年8月13日、三重県尾鷲市出身。78年にFL-500でレースデビュー。翌年チャンピオンを獲得すると、F3〜F3000(※現在のフォーミュラニッポンにあたる)とフォーミュラカー路線を邁進。一方で、88年からはツーリングカー耐久レースにも出場し、全日本3連覇、鈴鹿1000km4連覇、筑波12時間耐久2連覇など輝かしい成績を収める。ルマン24時間レースには5度出場し、2000年にはLM-GTクラスで優勝。スポット参戦を続けていたNASCARは、2003年にシリーズ参戦し、ウィンストンカップに出場した日本人最初(どころか有色人種初!)のドライバーとなった。

 

自身の戦記も含む充実したHPはこちら

http://www.hideo-fukuyama.com/index.html

※福山英朗所属プロダクション、株式会社アンカー

 

 

 

来週はインタビュー後編「キミは人生を擲(なげう)てるか!?」をお送りします。レーシングに集まる人間の情熱や、福山さんがレースを通して学んだ”膝を打つ”人生観を伝授! お楽しみに!!

 

                  (構成・文/スケタケシン


 

 

★★★インタビュー百番勝負<過去記事>もあわせてチェック★★★

 

 001 鈴木亜久里【前編】「スーパーGTは恋に似ている

 002 鈴木亜久里【後編】「四文字ワードを語る

 

 

 

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