「私、モテ期がまだ来ないんですよねー」
注目新人RQ★29
スーパーGT「YOSHIKI×ROCKSTAR GIRLS」
菜々緒☆女の子が憧れる女
PHOTO/TAKANORI YAZAWA
↑ファッションモデルとしてのチケットを手にした2009年最大のスーパーノヴァ!
9月、代々木第一体育館。矢沢は日本最大のファッションイベント「東京ガールズコレクション(TGC)」に足を運んでいた。これまで数々の次世代モデルを生み出し、今回は9200名もの女子がエントリーした新人モデルオーディション「MISS TGC」のファイナリスト"6名"の中に、今年RQデビューした菜々緒が残っていたからだ。
最終審査は、錚々たる人気モデルたちが行き来したランウェイを、そのまま使って行われる。審査員は会場を埋め尽くした一般の女の子たち。20代を中心とした彼女たちが、ファイナリストのパフォーマンスを生で見たのち、携帯を使ってリアルタイムで投票するという形式だ。3番目に登場した菜々緒は、大きく手を振りながら登場。自らの持ち味を存分に生かしていた。ファイナリスト全員のパフォーマンスが終了し、再びステージに登場した6名は、グランプリ発表の時を待つ。矢沢も固唾を飲んで見守った。いよいよ、その瞬間がやってきた。「エントリーナンバー3・菜々緒さんです!」。スゲェ!やりやがった……。RQに関わって来た中で、これほどの震えを覚えたのは初めてだった。過去10年を振り返った時、彼女ほど同性に支持されたRQを矢沢は知らない。ステージ上では嬉しさのあまり菜々緒は号泣していた。
遡ること今シーズンの開幕前、3月、六本木ーーー。矢沢は六本木の交差点で信号待ちをしていた。とあるチームのRQオーディションで審査委員を務める日だった。すると、反対側の歩道で、同じく信号待ちをしている人混みの中から、とてつもなくスタイルの良いコが目に飛び込んで来たのだ。それはまるで、掃き溜めに鶴が舞い降りたかのよう。しなやかな肢体と、白い肌は、別格を通り越し、別次元の美しさだった。「あぁ、こんなコがRQやってくれたらなぁ……」。叶わぬことと知りつつも、RQオーディションに向かう道すがら、つい、そんなことを考えてしまった。二度と会うはずのない後ろ姿を見送りながら……。
ところが!? 再会は1時間後だった。なんと11番の札をつけたそのコが、審査員を務める矢沢の前に現れたのである。なんで、ここにいるんだ!? 逆方向に歩いて行ったではないか!?慌てて手元の資料を捲る。そのコの名は「菜々緒」。気が付くと彼女の資料を握り締めながら「今年は菜々緒で決まりだ! 彼女がサーキットの中心になることは間違い!」。そう確信していた。
PHOTO/TAKANORI YAZAWA
↑来シーズンの最大の話題は、このコがサーキットに戻ってくるかだ!
それから間も無く、彼女が「YOSHIKI×ROCKSTAR GIRLS」に内定したことを知る。オーディション以来、すっかり菜々緒の虜になってしまっていた矢沢は、GT開幕前に所属事務所に機会を頂き、撮影することにした。言葉を交わすのは、この時が初めて。どんなコなのか興味津々だ。準備をしているとエレベータが開き彼女が現れた。「よろしくお願いします」。微笑んだ時の口角の上がり方が美しい。さっそく撮影を始める。しかし、どうも硬い。これは買いかぶり過ぎたか? そこで場面を変えて窓際のソファーに座らせ「ここをベッドだと思って、朝起き上がる時のような写真を撮ってみようか」と、まるで演技指導のようにお題を与えてみた。すると、先ほどまでとは打って変わって、自然な素振りで動き始めた。それも、持ち味である手足の長さを存分に活かしながら。ポテンシャルの一片を見た思いだった。
何パターンかを撮影した後、写真をモニターで見せてみた。「面白い!こんな風に写ってるんですね!」。驚くほど無邪気に食いつく。その様子から、あまり撮影の経験がないと察した。「高校卒業のタイミングで芸能に進もうかとも思ったんですけど自信がなくて……。一先ず大学に進んで、1、2年で単位を取りまくって、3年から芸能の仕事が増やせればと思っていました」。そして今年が大学3年。なんて堅実な人生設計だ。
そんな生真面目さは、他の場面でも垣間見られた。レースの話をした際、分からない用語が出て来ると手帳を取り出し、ひとつひとつメモを取るのだ。しかも字が美しい。面白かったのは、知らない用語を耳にするたび、一瞬、眉間に皺が寄るところだ。彼女は無意識だろうが、何かを覚えたり、考えたりする時のスイッチなのだろう。それと大笑いした時の顔が、バレリーナ・草刈民代の笑い方にそっくりだ。見た目の完成度の高さから、近寄りがたい印象を受けるが、内面は"はたち"の女の子。あまりにもプレーン過ぎる彼女がとても新鮮だった。
それから数日後、岡山国際サーキットで彼女はRQデビューした。怒濤の快進撃が始まったのはRQとして名前が知られ始めた5月頃からだ。写真週刊誌FLASHの「ミスFLASH」でファイナリストに残る一方、女性ファッション誌「PINKY」の新人オーディション「プリンセスPINKY」では準グランプリを獲得。同誌の専属モデルとしても活動するようになる。そして「東京ガールズコレクション」の「MISS TGC」戴冠である。これまで現役RQが、女性をターゲットにした分野で活躍できる可能性は皆無に等しかった。肌を露出して男の視線を集めているというRQの世間的イメージから、同性から支持を得ることはできないと決め付けられていたのだ。
しかし、菜々緒はその慣習を打ち破った。だから矢沢は震えたのだ。これから、菜々緒はモデルとしての知名度を上げ、女の子から支持される存在になって行くだろう。もし、来年も菜々緒がサーキットに立ってくれたなら……、彼女のモデルとしての活躍を通して、RQの見られ方も大きく変わって行くはず。RQが以前のように注目されるようになれば、クオリティの高い人材が集まるようになり、RQを卒業した後の活路も広がる。そのとき、彼女自身も本当の意味で、サーキットの伝説になるのだ。矢沢はもちろん、来年春に菜々緒とサーキットで再会できるものと信じている。
今シーズンの「スーパーGT」は、この週末に閉幕。半年間で、数々の経験と実績を積んだ菜々緒だが、果たして今の自分をどう思っているのだろう。すると「私、モテ期がまだ来ないんですよねー」と、独り言のようにつぶやき、遠くを見つめた。そこには歳を重ねて間もない、21歳の横顔があった。
RQジャーナリスト 矢沢隆則
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